ビューティフル☆サンデー
時は休日の早朝。
別段早く起きる必要はないのだけれど、なんとなく目が覚めてしまった元親は隣でまだまだ寝ている政宗の腕を抜け出してリビングに。天気も良く日輪がさんさんと降り注ぐ中、ついさっき玄関口から取ってきた宅配牛乳を瓶からそのまま飲むんだ(手は腰)。
「ぷはーーっ!やっぱ牛乳は瓶だよな!」
誰にともなく言ったものが、背後で物音がした。
見ると、娘の千翁(5歳)が眠い目を擦りながら起きて来ている。ちなみに、もう片方のおててが繋いでいるのはお気に入りのうさぎさん。
「おっ、起きたか千翁?早いな」
「かぁさま‥おはよぅ‥」
元親は半分夢の中に居る千翁の小さな頭をぐしぐしなでて聞いた。
「兄ちゃんはどうした?まだ寝てんのか?」
「おべんきょうしてたみたいだから‥」
千翁はこっくりと頷く。昨夜夜更かしをしていたようだから、という意味だろう。
「そっか。父ちゃんも昨日は名古屋の方までオトシマエつけに行って来たってたからなー。
疲れてんだろなぁ」
自分で言っておいて何事か思いついて、そうだと手を打つ。
「二人とも疲れてるみてぇだし。今日は俺が、腕によりをかけて朝メシを作ってやっかな!
‥ん?千翁どうした?」
「かぁさま、千翁もおてつだい」
背伸びして、小さな手で自分のシャツをひっぱる様が微笑ましくて、元親は笑った。
「そうか。えらいな千翁。そんじゃ、うさぎさんには部屋で待っててもらおうな?」
ちょっとだけ考えて、千翁はこっくり頷いてぱたぱたと部屋にかけ戻るのでした。
‥‥かくして、地獄の釜は蓋を開けたのだった。
「‥親父、親父!!起きろ!」
「‥なんだ‥うるせぇぞ藤次郎‥‥」
「いい加減起きろって!年寄りは朝が早いんじゃないのかよ?‥でっ!!」
寝室に鈍い音が響く。
「口ばっかり達者になりやがって‥"父上"くらい言ってみせろ」
「そんな呼び方してんのは源二郎ぐらいだよ!‥ったく、殴るなよなっ‥!」
生意気盛りの息子(7歳)に制裁を加えた政宗は、ようやく目を開ける。
「まだ8時前じゃねぇか。何かあったのか?」
聞かれた藤次郎は一瞬言葉につまった。
「それが‥俺も今さっき起きたんだけど。台所に行ったら‥母さんと、千翁が」
ぴくりと政宗の片眉が上がる。
「朝ごはんができたから、親父を起こしてこいって‥」
「‥しまった‥ぬかったぜ‥」
普通ならば何の問題もない藤次郎の言葉に、作り手達が普通の範疇に収まる人種ではないことを良く知っている政宗は、がっくりと頭を垂れたのだった。
「おー、政宗!やっと起きたか。藤次郎ありがとな。
寝坊してっから俺が朝メシ作ってやったぞー」
言う元親の前の食卓には、ほかほかと湯気の立つ白いご飯と‥ご飯と‥味噌汁みたいなお椀と‥‥一見、なんだか良くわからないものが人数分並んでおり、なんだか不思議なニオイが漂っている。
元親は箸入れを運んできた千翁をイイコイイコして席に着かせ、横に自分も座った。
「なんだよ!お前等早く席につけよなー。まだ寝ぼけてんのか?」
不満げに元親が言うと、ようやく金縛りの解けた二人も席についた。
「‥Hey、元親‥これは何だ?」
「玉子焼きに決まってるだろ。そういや千翁のアイディアで砂糖の代わりにチョコが入ってたっけ?」
千翁スペシャルの隠し味は、ちょっぴり黒くなっちゃうのが玉に瑕。
じゃり。
「‥母さん、これ‥殻が‥」
「ああ悪い!上手く割れなくてな〜。ちゃんと殻取ったつもりだったんだけどよ」
カルシウムという名の愛情もたっぷりです。
「この黒いのは‥‥」
「ん?あ〜、ちょーっと焼きすぎちまったかな」
どうやら焼き魚のようです。コゲたところはちゃんと取って食べましょう。
「ぶっ、何で甘いんだ!?」
「いや、ちぃっとコゲて苦いかと思ってハチミツを」
政宗は口直しで牛乳に手を出す。(このさい「なんで和食に牛乳だよ」というツッコミは「牛乳ならマトモだろう」という思考で上書きされたらしい)
が、すぐにむせる。
「ごほっ、な、なんで甘いんだ?!」
「その方がウマいかなって砂糖を」
「どんだけアホだお前!」
不意打ちにパパ大ダメージ。ちゃんとホットにして溶かしたのにね。
そんな両親の様子を横目で見た藤次郎は、用心して味噌汁に手をつけた。
「み、味噌汁なら‥ぐっ!」
一見普通そうな味噌汁に浮いていたのはお麩ではなく。
「ちおうのマシュマロ、おいしい?」
「も‥もちろん」
伊達家のAngel(父談)に見つめられた藤次郎が否と言えるはずもありません。
ここで一つだけ弁明すると。ママと娘の味覚はそれほど常人とかけはなれているというわけではなく、ただ一点。甘い物がちょっぴし苦手なパパと息子とは違って、甘ければとりあえず及第点に達してしまうということが問題なのでした。
「う〜〜‥死ぬかと思った‥」
「藤次郎、胃薬飲んどけ」
「悪ぃ、親父‥」
元親と千翁が後片付けで台所に引き上げた後、こっそりと胃薬を飲む父息子の間で絆がちょっぴり深まったようです。
ガシャーン!
「うわっ、千翁危ないから触るなよ!」
「‥親父、あれ、3枚目‥?」
「気にすんな。俺はもう諦めた」
台所の何やら賑やかな様子も、既に気にしないことにした政宗はヒラヒラ手を振った。
やがて、しばらくして片付けが済んだらしい二人が出てきたが、何やら千翁が心配そうに元親にまとわりつている。
「かぁさま、血」
「大丈夫だって千翁、ちょっと切っただけだから‥政宗、絆創膏取ってくんね?」
呼ばれて政宗はソファに座ったままで振り向いた。
「怪我したのか?見せてみろ」
「たいした事ねぇって、ホントにちょっと‥って、ま、政宗!」
政宗は血の滲む元親の人差し指に舌を這わせる。
「ちょっ、何してっ!!」
「何って、消毒しなきゃだろ(口直しもしないとなぁ)」
「し、消毒って、そっちの指は切れてない!!」
元親は慌てるが、しっかりと手をつかまれて逃げられない。
「ち、千翁。兄ちゃんと二階で遊ぼう」
妹の教育上よろしくなさそうなので藤次郎は早々に連れ出す事にした。
こっくりと頷いて千翁は藤次郎の差し出す手をとった。
「かぁさまととぉさま‥仲良しね?」
廊下に差し掛かったとき、見上げて言う千翁の額に、藤次郎は微笑んでキスをした。
「そうだな。千翁と兄ちゃんも仲良しだ」
うん、と頷いて、千翁はなんだか嬉しくなってくるのでした。
いろいろやりすぎました。ていうか間違ってます。
‥もうダメダメね!
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