むかしむかしのこと
むかしむかしのことでした。
あるところに、大きなお山がありました。お山の森はふかく、こわいオオカミが住んでいるのだということです。
お山のふもとには、きつねとわんことねこのさんびきが、仲良く暮らしておりました。
面倒見がよくて優しいきつねは、みんなのおかあさんのようでした。(ほかのにひきにいまひとつ技能ややる気が足りなかったという方がいいかもしれませんが・・)
ある日きつねはいいました。
「お山の森にはこわいオオカミがいるんだから、1人で勝手に行ってはいけないよ。
とくに片目のいっぴきオオカミはずる賢くてざんにんだそうだから、みつかったら"ひとのみ"にされてしまうよ」
「いっぴきオオカミでござるか」
わんこはきつねに聞きました。きつねはうなづいて言いました。
「そう、ほかのオオカミたちとは違って、いっぴきだけでくらしているんだよ」
わんこはそれを聞いて、ちょっと考えて言いました。
「それはさみしいでござるな」
きつねの言いたかったことはそこではないのですが、きつねはそんなわんこが大好きだったので、思わずぎゅうっと抱きしめてなでくったのでした。
ねこはというと、後半は適当にながしていましたが、最初にきつねが言った"片目の"というところが気になっていました。なぜなら、ねこも片目だったからです。
ねこは、しっぽをしぱしぱふって思いました。
「おれとおんなじだ」
また、こうも思いました。
「どうせ木の上までは追ってこれないんだから、オオカミなんてちっともこわくなんかないな」
次の日、ねこはさっそくきつねのいいつけをやぶって、森にあそびに行ってしまいました。
ねこはオオカミがこわくありませんでしたし、なにしろ森にはおいかけて遊べる小さな動物や、登るのにちょうど良い木々など、おもしろいものがたくさんあったからです。また、片目のオオカミを見てみたいという気持ちも、ちょっとだけありました。
しかし、きつねのいいつけを"そんちょう"するつもりはあったので、少しだけ森に入ったところなら良いだろう、と思っていました。
てんきが良いので、ねこはこもれびの中をいい気分であるきました。
すこし奥のほうでひらひらと蝶が舞います。
「あそこまでならいいだろう。まだそともみえているし」
蝶をおいかけていると、また少し奥のほうに、きれいな花がさいているのがみえました。
「あそこまでならいいだろう。ここからそんなに遠くないし」
花の良いかおりをたのしんでいると、さらに奥のほうに、きれいな泉がわいているのがみえました。
「あそこまでならいいだろう。ちょっと水を飲んで休むだけ」
つめたい泉の前できゅうけいしていると、目の前をねずみが横切ります。
「おっ!まちやがれ!」
ねこはどんどん森に入っていきます。
ねこが気がついたときには、いつのまにか、あたりはたくさんの木におおわれて薄暗くなっていました。みたことのない風景です。近くの木に登ってみても、入り口は見えず、森はどこまでも続いているかのようです。ねこの額に冷や汗がながれました。
しかし、このままここにいてもしょうがありません。ねこは、帰り道だと思う方向へ歩きだすことにしました。
「きっとこっちだろ」
しかし、森というものはそうあまいものではないのです。あの木の形は見覚えがある、あちらの方が木が少ないから出口じゃないか。そんなふうにねこは、あちこちずいぶんと歩いたのですが、ちっとも森から出ることができませんでした。もはや帰る方向のけんとうもつきません。
そのうち、すっかりねこはくたびれて、動けなくなってしまいまいした。
「さすがにこれは、ちょっとまずいような‥」
鳥の声も、暗い森のなかではぶきみに聞えます。
「こんなことなら‥」
ちゃんときつねのいう事を聞いておけばよかった、とねこは後悔しましたが、もう、今となってはどうしようもありませんでした。
どれくらいそうしていたでしょう。どうしようもないならいっそフテ寝してやろうか、などとねこが考えていると、うしろの森からがさがさと、何か大きいものが移動する音が聞えました。
「ぐるるる‥」
おそろしげな声も聞えます。
ねこはふるえあがりました。それは、オオカミの声に違いありません!
「うまそうなニオイがするな」
ふりかえったねこの前に現れたのは、いっぴきのオオカミです。目が片方だけしかありません。きつねが言っていた、ずる賢くてざんにんな片目のオオカミに違いありません。
ねこは、見てみたいと思っていたこともすっかり忘れて、必死にみがまえました。しかし、オオカミには、ねこがこわがっていることがひとめでわかりました。
ゆっくりとオオカミは近づいて、もうねこの目の前まで来ています。しかし、ねこはこわくて動くことができません。
オオカミは、そんなねこを馬鹿にして言いました。
「おれがおろそしくて逃げることもできないか。しょせんはねこだな」
「なんだと?!」
それを聞いたねこは、かぁっと一瞬で腹が立って、こわいのがふきとびました。自分でも思ってもみないような素早いうごきでオオカミにとびかかります。オオカミは驚いていっしゅんひるみましたが、しかし、つぎの瞬間にはねこの"よこっつら"を強烈な一打ちでなぐり、はね飛ばしました。
跳ね飛ばされたねこは、木にぶつかってそのまま気を失ってしまいました。しかし、オオカミの手には、ねこのつけた爪あとがのこって血がにじみました。
「‥‥」
オオカミはぺろりと自分の傷をなめたあと、じっとねこを見ました。
それからしばらくしてのことです。
はたして、ねこはどうなったのでしょうか?
ねこは、オオカミに食べられてしまうこともなく、無事にきつねとわんこの待つ家へとたどり着いていました。
ねこが気がつくと、すぐ近くにオオカミがおりました。とっさに逃げようとするねこを、オオカミは追おうともせず、ついて来るように言いました。ねこは不審に思いましたが、食べるつもりならとっくに食べられていたでしょう。ねこが寝ているときにそうすれば良かったのですから。
他にしようもなかったので、ねこは、おそるおそるオオカミについていくことにしました。
なんと、オオカミは、ねこそのまま森の外まで案内してくれたのです。森の外にはねこを心配した、きつねとわんこが探しに来ていました。オオカミを見たきつねは、最初びっくりしてみがまえましたが、オオカミの後ろには、探していたねこがいたのです。
ちょっと前のきつねであれば、オオカミがなにかたくらんでいるのではないかと思ったかもしれません。しかし、きつねはこのとき、昨日わんこのいった言葉を思い出しました。
「さみしいでござるな」
さみしいのであれば、だれかと仲良くしたいとおもうのではないでしょうか。
それで、そういった理由から、ほんとうに親切で助けてくれたのかもしれないと思ったのでした。
「ねこを助けてくださって、ありがとうございます」
「かたじけないでござる!」
きつねは、ふかぶかとあたまを下げてお礼を言いました。わんこは、最初からぜんぜん怖がっても疑ってもいないようでしたが、いっしょにお礼をいいました。
これはわんこがおばかさんだということではなく(それはそれでまちがってはいないのですが)、わんこにはそういう、物事のほんしつを見抜くような"やせいのカン"があったのです。
「ほら、ねこもこっちに来てちゃんとお礼をいいなさい」
ねこは、オオカミが森の外まで案内をしてくれたことに感謝はしていました。しかし、案内する間ひとこともしゃべらなくて不安でしたし、また、オオカミの歩くのが早かったため疲れているねこはなんども見失いそうになりました。
そのことに腹を立てていたねこは「こんなやつに‥」と思いましたが、大好きなきつねには逆らえません。また、助けられたことはじじつです。
しぶしぶお礼をいいます。
「その‥たすかった‥り、ましたっ!」
きつねがにらむので、しかたなくていねいな言い方にしました。
そんなさんびきを、オオカミは片方の目でだまって見ていましたが、フン、とはなをならしてきびすを返しました。
「馬鹿にはこんど来たらくってやると、ちゃんとよくいっておけ」
「待って!」
森へ帰ろうとするオオカミに、きつねは声をかけます。
「夕飯でも、たべていきませんか」
オオカミはたちどまりました。
つづけてきつねは、ちょっとだけ不満そうなねこにこう言いました。
「その後に、お説教だからね」
「げぇぇ」
ねこは思わずうなりました。その声があんまりなさけなかったので、ねこ以外のみんなが笑いました。
それからというもの、オオカミは、ちょくちょくさんびきのところに遊びに来るようになりました。オオカミはちょっと性格に"なん"がありましたが、それなりに良いところもありました。ねこを「たべてやる」と言ったのも、からかってやろうと思ったためで、本気ではなかったのでした。
そんなねことはよくケンカになりましたが、ねこも、ほんとのほんとにオオカミが嫌いだったわけではありませんでした。
そんなわけで、さんびきの暮らしは、さんびきといっぴきの暮らしになり、ずっとにぎやかに、ますます楽しくなったのでした。
おしまい。
こんなんなのに「良い話」系でまとめようとするさもしさというかなんというか・・
あいすみませぬっ!書きたかったのっ!!(切腹)
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