狐の提灯


お山にも秋が来ました。木の葉が赤や黄色に色づき錦のようで、晴れた日なんかはとても綺麗です。
けれども、今はお山も、麓の村もしとしと降る雨で濡れていました。
灰色の空に、どこか遠くから鐘の音が響いていました。

まだ火の入っていない炉辺で繕い物をしていた佐助の耳がぴくりと動きました。
「あれは、なんの音でござろう?」
1度、2度。少し間を空けて、続けてまた3度。鐘の音はしとしとと降る雨にも消されることはなく、響いてきました。雨のために外に出られず暇をもてあましていた幸村が不思議そうに聞きます。
「あれはねぇ。人の子の村で誰かが亡くなった、って合図だよ。最初のが2回だから女の人。次が1回なら老人、2回なら若い人、3回は子供か赤ん坊」
「では、亡くなったのは子供か‥」
うなずく佐助に幸村も口をつぐむと、音もなく降る雨の中で繰り返す鐘の、細い悲しい音だけが響きました。

その夜のことです。
幸村たちが寝静まった後、起こさないようにこっそりと佐助は家を出ました。雨はもう止んでいます。
佐助が手にしているのは提灯が一つ。こんな月が明るい夜は佐助には必要ありませんが、"お客さん"のために用意して行くのです。
「さぁ、急がないとね」
人の子の村との境まで。目印の赤い鳥居を目指して、ふさふさのしっぽをふわりと一振りして佐助は夜に消えました。


しくしく、しくしく。
どこからか泣き声が聞えます。提灯を手にした佐助は「ああやっぱりなぁ」と思いました。
「やっぱり泣くかぁ‥子供だもんなぁ。未練で嫌がって逃げて迷っちゃうよりは良いんだけど、苦手なんだよね‥」
誰にとも泣く言ってふぅとため息を吐くと、ちょうど道にしゃがみこんで泣いている小さな人影が見えました。
「おじょうちゃん。どうしたの?おっ母さんとはぐれちゃった?」
誰も居ないと思っていたのに声をかけられて、女の子は泣くのをやめて佐助を見上げました。そして、こくりと頷きます。
「そっか。でもここに居てもしょうがないからさ、オレと一緒にあっちに行かない?ここは暗いでしょ」
佐助は屈んで、提灯をかかげてにっこり笑います。
「‥きつねさんと?」
女の子は佐助のふさふさのお耳を恐る恐る触ります。
「行ったらおっ母ぁに会える?」
女の子が聞くと佐助は女の子の頭をなでて言いました。
「‥うん。そこで待ってたら、おっ母さんにもきっと会えるよ」
じゃあ行く、と、女の子はようやく涙を拭いて立ち上がります。
「よし、そんじゃ手を離さないようにね」
手を繋ぎながら、やっぱり子供は苦手だと佐助は思います。嘘は言っていないけれど、騙しているような気がするのでした。

しばらく二人で歩いていくうち、暗い暗い道の果てのような場所へたどり着きました。
「さぁ、ここからは君ひとりで行くんだよ」
なぜか、道の途中から先には月の光も通らず、真っ暗です。どこからか、遠くで川の音が聞えます。
二人は立ち止まり、女の子は不安そうに佐助を見上げました。
「でも、暗くて道がわからないよ」
「大丈夫だよ。ご覧」
佐助はあたりを示します。
すると女の子は、真っ暗で何もないと思っていた足元に、沢山の彼岸花が咲いているのに気付きました。
「ここからはオレの代わりにコイツらが案内してくれる」
言って佐助は、人の言葉ではなく本来の言葉で一声高く鳴きました。
すると、応えるように、花達は風もないのに揺れました。そして、次の瞬間。
花達にほのかな光がともって、闇夜に浮かび上がったのです。
そうして明るくなると、花畑の間をぬって白い道が続いているのが見えます。
「ホラ、これで行けるでしょ?」
驚いた女の子は、不思議で綺麗な光景にわぁと喜んで頷きました。


「ただいまぁ〜、‥なんてね」
仕事を済ませた佐助が帰り着いたのはまだまだ夜中です。
幸村たちも眠っている時間なので、こっそり起きないように挨拶して佐助は家へ帰りました。
「お、おかえりでござる‥!」
佐助が驚いたことには、返事がありました。幸村です。
「ダンナ?!起きてたの‥」
「うむ。佐助の昼間様子が気になったもので」
とはいえ普段早寝早起きの幸村は、眠りそうになるのを頭を振ってなんとか堪えているようです。
佐助は頑張って起きていてくれた幸村に嬉しくなりました。
「‥そっか。ありがと、旦那」

人を送るお仕事は大切だし文句はないけれど、こんなときは佐助もちょっと気が滅入ります。
「じゃあ、眠りながらでもいいから聞いててよ。今日はさ‥」
うむ、と頷きながら早くも舟をこいでいる幸村に、話しているとそんな気持ちが軽くなっていくのでした。








このシリーズが続くとは‥(笑)
なんか人の世界からだと皆神様みたいな役割持ってたら良いね?!みたいな。

こんなとこまでお付き合いいただき有難うございました!!